プロポリスと言ってもどんなものか、どこで採れるのか、どのように加工するのか、知っているのは作っている人だけでしょう。原料の偽装や、作業工程でのインチキが散見される昨今、どのようにプロポリスが作られ、お手元に届くのか、実際ブラジル現地に行って詳しく取材をさせていただきました。
取材させていただいたのは、サンパウロから450キロ程東北にあるミナスジェライス州の ベロ・オリゾンテ付近にある養蜂場さんとミナスジェライス州南部ブラゾポリスのプロポリスメーカーASCA社さんです。
(写真中央:ブラジルプロポリス店長の松本です。)
採取されたばかりのプロポリス原塊。
ミナス・ジェライス地方独特の鮮やかな緑色を呈しています。
プロポリスとはどのようなものでしょうか?
プロポリスは、ミツバチが集めてきた樹皮や花芽、その他のものを自分の唾液と混ぜ合わせて作る樹脂のような固体で、これを巣の補修に使いますが、実際は外敵の侵入を防いだり、巣の温度を調節したり、巣の中を無菌状態に保ったり、様々な効果をもたらしています。
一言でプロポリスと言っても、その中味はミツバチが生息する場所の植物の植生によって大きく違います。例えば、ヨーロッパはポプラやシラカバ、アカマツ由来が多く、オーストラリアはユーカリ、中国はシラカバ、そしてブラジルはユーカリやアレクリン由来のものが多いようです。
(詳細は「ブラジルのプロポリス」を参照ください)
アルテピリンCを多く含有するブラジル特有の低木アレクリン
ブラジル産のプロポリスは世界で一番人気があるとされています。
当初、オーストラリアから輸入されたユーカリ種をベースにしたフラボノイドリッチなプロポリスがオーストラリア産よりも安価ということで注目されましたが、その後の色々な研究により、ブラジル特有の植物アレクリン、アサペシの中にアルテピリンCなどのプレニル桂皮酸誘導体が発見されたことにより、その優位性が明確になり、ブラジル産に一気に人気が集まりました。ブラジルは日本の22.5倍の面積がありますが、その中でもアレクリンリッチなプロポリスが採れる場所はわずか5ヵ所程度しかないと言われています。
(詳細は「最高級のプロポリス」を参照ください)
ブラジルでは、プロポリスの採取は10月頃から始まり、そのピークを11月頃に迎えます。当初、1つの巣箱には数千匹のミツバチしか入れませんが、最盛期になると6万匹ものミツバチに増え、蜜をせっせと運び込みます。
ブラジルのミツバチは「アフリカ蜂化ミツバチ」と言われ、1950年頃、たまたま実験のために持ち込んだアフリカ種が西洋ミツバチと交配してできた特別な種です。非常に生命力が強いだけでなく、飛行速度、飛行高度、飛行距離ともに普通の西洋ミツバチの2、3倍以上の能力を持つと言われています。
メスは幼虫の頃から花粉とハチミツを食べて成長して働きバチとなりますが、最盛期には30日程度、越冬期でも150日程度でその短い寿命を終えます。一方、オスは巣の外に出ることもなく、女王蜂と交尾することだけが仕事ですが、交尾によって内臓が破壊されて死ぬか、生き残った他のオスも、女王蜂の繁殖期後は巣から追い出されて死滅するかのどちらかの運命をたどります。唯一産卵能力を持っている女王蜂は、寿命が3年程度と非常に長く、働き蜂が分泌するローヤルゼリーだけで育ちます。
ミツバチの数が最も多くなる11月頃、ハチミツやローヤルゼリーとともにプロポリスも採取の最盛期を迎えます。
ハチの巣箱は、正六角形の金網が張ってある長方形の木枠を複数枚、地面に水平にした向きで等間隔に木の箱はめ込んだもので、自由にハチが出入りしやすいようにそれぞれの木枠の間に隙間を作ってあります。この金網には卵が産みつけられたり、ハチミツが溜まります。
プロポリスは主に巣の修復に使われます。何もないまっさらな巣箱を与えられると、ミツバチたちはその木枠の隙間にプロポリスを塗り始め、自分たち以外の動物や生き物が侵入できないように、自分たちが通れる小さい丸い穴を残してその枠をプロポリスで埋め尽くしてしまうのです。その穴の間隔は見事に等間隔で、まるで自然に作られた「ベルト」そのものですが、これこそがプロポリスの原塊です。
1シーズンで、1つの巣箱から2-3Kgも採取できるということですから、小さな体のミツバチたちの大変な働きぶりを窺い知ることができます。
数百から数千にも及ぶ巣箱から集められたプロポリスの原塊は食品工場に移され、以下のような製造工程を経ます。(液体プロポリスの場合)
昔から行われている一般的なアルコール抽出方法はシンプルですが、会社によっては2年かけて抽出する、さらに他のフィルター工程を加える、ヤニを取り除く工程に2週間をかけるなど、会社や製品によっては様々なこだわりが見られます。
ブラジルからの輸入品は、通常国内でどこかの店や農場に行って大量に製品や原料を購入するのとは大きな違いがあります。それは、食品衛生法に基づき、輸入する前に検疫所に相談・確認し、検疫審査に必要な書類をあらかじめ準備しなければなりません。プロポリスの場合は、食品等輸入届出書、原材料、成分または製造工程などに関する説明書、さらに日本政府が指定した分析機関で特定の残留農薬や添加物などが含有されてないことを示す証明書、必要に応じて衛生証明書が必要です。
検疫審査が終わるまでの間、税関の輸入許可がまだもらえていない貨物は保税倉庫という場所に保管されます。もし、提出書類に不備があったり、分析試験結果で異状が認められた場合は、輸入手続きをすることができなくなります。賞味期限の短い食品や燻蒸などの処理を行わなければならない花卉などは、製品価値がほとんどなくなってしまうので、廃棄処分ということもよくあります。また、保存が効くものについては積戻しといって、輸出者に戻されることもありますが、いずれにせよ、輸入者の手元に届くことはありません。
当店の場合、ブラジルから輸入をしているので、もっぱら輸送時間の短い空輸を選んでいますが、輸出者の出荷から税関の保税倉庫に保管されるまでに1~2週間程度かかり、ここで分析試験を新たに行ったりしていると、さらに10日~2週間程度はかかりますので、もたついていると1か月はあっという間に過ぎてしまいます。輸入品は手間の多さもあり、ほとんどの企業が製品として輸入せず、より輸入に際しての手間やコストがかからない原料を輸入し加工して国産として販売しています。そのため、当店のような直輸入プロポリス専門店は稀有なのかもしれません。こうして、全ての輸入手続きを経た製品はお客様に届けられることになるのです。